老化を治療する、という考え
今、世界は人生120年時代を見据えて
「病なき老い」の実現に向けて
動き出そうとしています。
ただ単に「寿命120年」と言うと…
元気なまま120年を過ごせるならどうでしょうか。
120年を前向きに生きられるなら、
どうでしょうか?
しかも、女性がこれまでよりも長く
子供を産める身体を維持できるとしたら?
年齢を理由にあきらめてきた多くのことを、
あきらめなくてよくなるのだとしたら?
これまで老化と老化に起因する病気の数々は
切っても切り離せない関係にありました。
人はなぜ老化するのか、
なぜ老化すると病気になるのか、
骨密度の低下や筋力低下が起こるのは
なぜなのか?
老化によって生じる枝葉のような現象の根を
たどって源流に足を踏み入れた時、
「老化を治療する」という
新たな可能性が姿を現しました。
老化研究の権威である米ハーバード大学の
デビッド・A・シンクレア教授は認知症や糖尿病、
あるいはがんのような、
老化に起因する多くの病気は「老化」から
派生する枝葉だという考え方を提唱しました。
多種多様な症状が枝葉であるなら、
ひとつひとつを治療する対症療法は
もぐらたたきのようなものです。
根本的な原因の排除にはつながりません。
健康寿命120年、「病なき老い」を実現するために、
どのようにして老化という大きな病気に
立ち向かえばいいのでしょうか。
老化の“源流”をさかのぼる
人体は全身でひとつに見えて、
その実、心臓、肺、胃、肝臓、腎臓、
脳、筋肉、皮膚などといった多種多様な
器官がお互いに影響しあって「命」を
支えています。
そして、それらの臓器は、
およそ37兆個という、想像を絶する数の
細胞の集合体です。
心臓病ならば心臓に、認知症ならば脳に、
肝機能低下ならば肝臓に注目し、
老化によって失われていく機能を
投薬などで補うのがこれまでの医療の常識でした。
加齢性疾患の治療は、老化から派生する枝葉への
対処にとどまっていたわけです。
老化という変化をより身体に密着して
観察すると、細胞のなかで
何が起こっているかが見えてきます。
細胞は分裂によって総数を維持しているものの、
無限に分裂を繰り返せるわけではなく、
分裂限界が存在します。
これが「ヘイフリック限界」です。
「ヘイフリック限界」を迎えた細胞は、
細胞死によってその場を去るか、
ゾンビ化してその場にしがみつくか、
どちらかの道をそれぞれ選択します。
2021年の日本人の死因をまとめた政府の統計によると、
第一位は「がん」で26.5%を占めています。
次点が「心疾患」で14.9%、
第三位が「老衰」で10.6%でした。
現在、世界を席巻している新型コロナウィルス感染症による
死者数は日本国内に限ると累積で
52,823人(2022年12月16日時点)ですから、
年間38万人以上がなくなる「がん」の脅威のほどを
お判りいただけるかと思います。
細胞の老化がこの「がん」という
病気を誘発しているということを
ご存じでしょうか?
ゾンビ化した細胞のことを
「老化細胞」と呼ぶのですが、
老化細胞は本来の役割を果たさないばかりか、
周囲に炎症をまき散らして、
腎機能低下、肺の繊維化や、ガン化を推し進めるのです。
「老化細胞」は死を放棄した細胞です。
年齢を重ねるほどに「老化細胞」は
どんどん蓄積し、影響が大きくなっていきます。
「病なき老い」の実現に向けてなすべき第一の努力は、
「老化細胞」を新たに作り出さないこと、
第二に、「老化細胞」の排出を促し、
蓄積を防ぐことだと考えていいでしょう。
老化細胞の新たなる誕生を防ぐ方法
新しく作られる「老化細胞」を減らせば、
おのずと蓄積する量も減りますよね。
単純ではありますが、細胞を若々しく保つための
最も基本的な対策です。
「老化細胞」の発生を防ぐには、
「ヘイフリック限界」を遠ざける必要があります。
細胞分裂の回数を増やす効果がある物質が
いくつか確認されています。
老化研究の世界では2002年に
レスベラトロールの延命効果を
確認したのを皮切りに、
抗老化薬として機能し得る物質の
再発見が続きました。
酵母を用いた実験によって、
レスベラトロールはカロリー制限と同じ
メカニズムで細胞を延命していることが分かりました。
マウスにレスベラトロールを投与する実験では、
総寿命を20%も延伸したのだとか。
つまり、複雑な仕組みを持つ多細胞生物であっても、
レスベラトロールは十分に延命効果を発揮すると
証明されたわけです。
抗老化薬の研究は、レスベラトロールの
発見によって次のステップに進みました。
レスベラトロールよりさらに
効果が高い抗老化薬については、
次回の記事にしたいと思います。