シンガポールの伝統的な暮らしと変化
前回の記事で平均寿命と健康寿命を
取り上げました。
そんな中で目に留まったのがシンガポールについてです。
今回はシンガポールの国の状況を調べてみました。
シンガポールは東南アジア南部に位置する
マレー半島南端のシンガポール島を
はじめとした60からなる島々で構成された共和国です。
世界でも珍しい都市国家で
国土面積はわずか683平方キロメートル、
東京23区の1.15倍ほどの面積におよそ570万人が暮らしています。
東京23区の人口が971万4254人(2022年7月時点)ですから、
シンガポールに行ったことがない方でも
国土としての規模をなんとなく把握できるのではないかと思います。
非常に小さな国です。
しかしそのいっぽうで、世界経済の中では
巨人とも言うべき存在感を増しているのです。
スイスの国際経営開発研究所が2022年6月に発表した
「世界競争力ランキング」で、シンガポールは3位、
東南アジアで比較的高評価だったマレーシアでも順位は32位、
タイが33位、日本は34位でした。
2019年来のコロナ禍でシンガポールの経済成長率は
かつてないマイナスをたたき出しました。
日本経済ももちろん大きな打撃を受けましたし、
諸外国も動揺です。
しかし、世界的な災禍のなかでシンガポール政府は
鮮やかな方針転換を見せ、
半導体事業などの一部分野ではプラス成長を
実現してのけたのです。
こうした動きの速さ、政策の効率、
危機に対する行動力などが高評価の理由に
なったのではないかと思われます。
国土が狭く、人口も少ないシンガポールは、
優秀な人材を集める移民政策と、
外国企業優遇措置で経済ハブ拠点としての
成長を目指しました。
そのため、シンガポールには仏教、キリスト教、
イスラム教、道教、ヒンズー教などを信仰する人々が
混在する状況となっています。
シンガポールの伝統的な暮らしは、
移民として移動してきた人々がもともと暮らしていた
土地に根差したものです。
シンガポール共和国の国民になった今でも、
移民とその子孫である人々は、かつて暮らした
故郷で培った文化を忘れていません。
共働き家庭がほとんどのシンガポールでは、
朝昼の食事を屋台で取り、
夜は家族でそれぞれの家庭の伝統的な食事を
とるスタイルが一般的なのだとか。
隣人が守る異文化に触れないこと、
言及しないこと、このような暗黙の了解のもと、
異なる宗教、異なる食文化、異なる言語が
共存する不思議な国家が成り立っているのです。
平均寿命と健康寿命の差が急激に広がったタイミング
シンガポールで国民の平均寿命と健康寿命の差が
急激に広がったタイミングは2017年でした。
しかし、異変は2016年と2017年の間に起こったわけではありません。
経済大国としてシンガポールが名を上げ、
経済的な成長を続ける陰で、先進諸国の多くが
かかえる難問がひっそりと根を下ろし、
枝葉を広げていたのです。
もちろん日本も現在この問題に直面しています。
経済成長を阻害し、国民の生活を圧迫し、
最終的には国そのものを破綻に追い込む究極の難問……
少子高齢化です。
そして、経済大国ならではの国民病として糖尿病、
心血管疾患や癌などの罹患率上昇も懸念材料になりました。
少子高齢化と生活習慣病の蔓延、日本とよく似た状況ですよね。
シンガポールは国内に目を向け始めた
シンガポール政府は2017年に急激に拡大した
平均寿命と健康寿命の差に危機感を覚え、
外向け重視だった政策をぐっと引き締め、
「国内」へ、「国民」へ目を向けるようになったと言います。
それまでシンガポール政府は外国企業の法人税率が
年々低くなるなど、外資の引き込みと
外国人労働者の獲得に熱心でしたが、
少なくとも労働者の雇用に関しては、2022年現在、
シンガポール国民を優先する形に変更されています。
外国人労働者の受け入れは全体的に厳格化し、
選別が厳しくなったということです。
生活習慣病の原因と対策は?
国民のほとんどが毎食を屋台で食べる習慣こそが、
生活習慣病が増える原因であると
シンガポール政府は考えました。
シンガポールでは宗教上の理由からタバコを吸わず、
飲酒もしない人が多い反面、
中華料理やマレー料理、インド料理など、
油と香辛料をたっぷり使った料理がほとんどです。
外食があたりまえのシンガポールでは、
自然と人々が不健康な食事をとり続けることになったのです。
喫緊の課題として、シンガポール政府は
「ヘルスケア2020マスタープラン」を打ち出しました。
基本計画は以下の通りです。
:ヘルスケア2020マスタープランの目標
1・医療施設へのアクセス向上
2・医療サービスの質の向上
3・医療費の負担軽減
:3つの戦略
1・予防医療へのシフト
2・地域医療へのシフト
3・価値へのシフト
2017年を契機に、シンガポールは医療を充実させ、
医療施設にアクセスしやすくすると同時に、
若年層への健康教育で国民が正しい知識を
得られる環境を整える政策へと動き出しました。
国民自身が健康意識を高めると、
それまで自分たちがなにげなく食べてきたものが
どれほど身体に悪かったのか、
どれほど人生をむしばんできたのかを
理解するようになります。
病気で苦しむのは自分自身ですから、
国民ひとりひとりが自然と生活習慣を
改善する必要性を認識しはじめたのです。
2019年にシンガポールの平均寿命と健康寿命の差が
10年を下回ったのは、政府の素早い対応の成果と
言えるのではないでしょうか。